人的資本経営
1.人材は投資に見合う資本
今、注目されている人的資本経営(Human Capital Management)は、企業において社員の知識、能力、スキル、経験、やる気などの人的資源を最大限に活用し、企業の目標達成を行うための戦略と言える。
今までは人材を資源(ヒト、モノ、カネの一つ)またはコストとして考えていたが、人的資本経営では人材を資本として捉え、見えざる資産(無形固定資産)の中心と位置づけている。
バブル崩壊前(1990年)では世界で日本的経営が賞賛された。そこには規格大量生産型に適合した良好な労使関係、終身雇用、年功序列がフィットしていた。当時、築かれた社員との関係と人的資本経営は大きく違う。
2.伊藤レポート
経済産業省は人的資本経営を「人材を“資本”として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と表現している。
2020年9月に経済産業省の「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の成果として「人材版伊藤レポート」を公表。2年後の2022年に人材版伊藤レポート2.0を発表。
企業理念や存在意義、経営戦略を明確にし、経営戦略と連動した人材戦略を策定・実行する。その為には、実行を担う責任者CHRO(Chief Human Resource Officer)を置き、経営課題を抽出し中長期の戦略を作成する。
3.中小企業においての人的資本経営
中小企業は大企業と比べると福利厚生、給与、労働条件は見劣りする。労働組合もなく、オーナー経営者の意向が人事制度や採用、人材育成にも反映する。
伊藤レポートは「経営戦略と人材戦略の連動」が人的資本経営にとって重要なステップと述べている。しかし、経営戦略が明確でない中小企業に人材戦略は無い。そして、社長の一言で人事が変わる、賃金が変わる。
従業員40名の某専門商社S社。経営者が人材の新規採用も育成も責任者となり忙しく動く。同社は社員旅行をはじめクラブ活動や同好会なども頻繁に行う。社長は社員の家族構成も熟知し、仕事の悩みも聞く。
これも立派な人的資本経営と呼べないだろうか。
(Written by 川下行三 23/11/10)